

新思潮 No.144 2017年5月号より④
―壱岐吟行(2016年11月6日)― 長崎県壱岐の島で行われた昨日の研修句会に続き、二日目は壱岐吟行。お天気もまずまず。吟行日和だ。 |
|
壱岐の蒼にふと消えたいと石蕗の花 | のりこ |
◇弁天荘
弁天荘は昭和11年に建てられた老舗旅館で県の建物遺産にもなっている。壱岐を代表する川柳作家故平田のぼる氏の旅館だ。弁天荘の門の前にはのぼる氏の句碑がある。 | |
海の声が君に聞こえる筈がない | のぼる |
一日だけの「海の声」を聞く壱岐の旅が始まる。 | |
松籟に只聞こえるは海の声 | 伸幸 |
のぼる句碑今日は仲間の声を聞く | 甫釦 |
◇岳の辻
岳の辻は壱岐の最高峰で213mある。展望台からは360度の大パノラマ。島全体を見渡せる。213mがこんなに高いとは!それだけ壱岐は平坦な島である。風が強いため片側は防風林も多い。 古来、朝鮮半島と日本の重要な中継点としての壱岐は、地理上も歴史上も重要な島なのだ。3世紀の「魏志倭人伝」には「一大国(一支國)」として高度な文化をもつ一つの国として紹介されている。 | |
山茶花咲く 影まっすぐに狼煙台 | 恵子 |
わが世紀いずこにかすむ丘の上 | 俊介 |
◇猿岩
岳の辻展望台を下り、バスは島の西にある黒崎半島へ。その先端には島でも一、二を争う人気スポット「猿岩」がある。日本の奇岩百景にも選ばれている、まさに島の自然が作り出した造形美。高さ45mの海蝕崖の玄武岩だが、その姿が横を向いたサルにそっくり!海を見続けていたサルがそのまま岩になってしまったようなリアルさだ。哲学者のような横顔である。 | |
猿岩と心中する気はなきものを | 千秋 |
防人は秋のかなたを見つめている | 雅子 |
猿岩のガーンと雲にまばたきぬ | 嬉久子 |
◇掛木古墳と風土記の丘
壱岐には多くの古墳が存在する。その数大小合わせて280基。長崎県内で確認されている古墳の6割に当たる。 副葬品には大陸や朝鮮半島のもの、匂玉、ガラス玉等が見られ、交流も多く友好関係にあったと思われる。 | |
神々のまなざし憶う壱岐古墳 | 宣子 |
掛木古墳のそばには風土記の丘がある。温暖な気候にも恵まれ平坦な土地が多いため、集落の人々は農作に励み、豊かな生活が営まれていたのではないか。 | |
ありがとう干支に合わせて壱岐廻り | 義範 |
◇壱岐の蔵酒造
壱岐は麦焼酎発祥の地としても有名である。次に向かったのは蔵酒造の会社。500年に渡り、受け継がれた伝統の製法は、世界にも認められていて、壱岐焼酎として、ウィスキーのスコッチやブランデーのコニャック等世界の銘酒と肩を並べているほど。 | |
島焼酎飲めば飲むほど石(つ)蕗(わ)の花 | 文音 |
◇はらほげ地蔵 「はらほげ」というユニークな名前は、海に突き出した台座に、横に六体並んでいるお地蔵さんのお腹がほげて、穴が空いていることに由来する。海に突き出して並んでいるので満潮時にはお腹から首まで海水に浸かるとか。そのため満潮時にお供え物が流されないように、お腹の穴に置くようになったそうで、現在はお賽銭が置かれている。 赤い胸当てに赤い帽子、頭部は丸石で目鼻はない。六体は六道を表し、遭難した海女さんの冥福を祈るため、疫病が流行しないよう祈るため立てられたと言われている。 | |
はらほげや波の告白聴いている | 健治 |
はらほげ地蔵 四季を寄り添う海の中 | 伸吾 |
◇左京鼻
はらほげ地蔵から八幡半島を少し東へ行き左京鼻へ。「鼻」とは岬のこと。1キロに及ぶ高さ20mの断崖絶壁が真っ直ぐ続く。 崖の上は広い芝生が広がっているので崖の上とは思えない。が、玄界灘に面している海面からは海中から細い柱を束ねたような奇岩がいくつも突き出ている。午前中は穏やかだった海が、一転して荒海に。海の声が大きくなってゆく。 | |
白波の激しく迫る左京鼻 | 華子 |
左京鼻 玄界灘の牙を見る | 華菜 |
◇一支国(いきこく)博物館
一気に一支国へタイムスリップ。 博物館では縄文、中近世の遺跡・出土品が紹介・展示され、壱岐の歴史を学ぶことができる。 海とともに生き、海からの恩恵も厳しさも受けた壱岐の島。 帰りの高速艇は案の定時化のため欠航。フェリーでの帰航となったが、揺れる船の中で、遠く近くに、微かだが海の声を聞いたような気がした。 | |
夜の海いもうとが墨磨っている | 桐子 |
豊穣の島で哀史が波立つ夜 | 夫美子 |
2017.6.22