

新思潮 No.149 2018年3月号より①
くしゃみするごとに綻ぶ梅の花 | 古俣 麻子 |
ふっと山口誓子の〈探梅や遠き昔の汽車にのり〉を想い出した。「探梅」は寒中 に綻び始めた梅を訪ね歩く意である。それと異なり、掲出句の「梅の花」は作者の 日常性と共にある近距離のものだ。人間性の綻びを感じさせる「くしゃみ」の可笑 しみを、効果的に内在させた表現がユニークで魅力的。〈細川不凍〉 | |
斬新な表現に目を洗われる思いだ。チャーミングな「くしゃみ」の言葉には、春 を手繰り寄せるような力強さと面白さが感じられ、心豊かな女性像が浮かんでくる 。〈松田ていこ〉 | |
カミュが来ている冬のプラタナス | 桂 由輝花 |
冬のプラタナスの枯木は寂しい存在だが、この句はカミュによりさらに屈折させ ている。ただのプラタナス並木であっても、カミュが通れば、ざわめいてくるにち がいない。作者にとってカミュの幻影は濃いものなのだろう。プラタナスの枯木に 複雑な翳を投げかけているのだ。〈岡田俊介〉 | |
三日月へともに漕ぎだす水の向き | 吉田 州花 |
一輪の野の花のいのちをじっとみつめる深いまなざしへ、三日月は静かに光を湛 え、水は豊かなさざ波を唄う。いつも自然体の作者は愁いの影までも、こんなに軽 やかに詠う。〈松田ていこ〉 | |
朝顔のランプが消えた二十五時 | 鮎貝 竹生 |
冬の夜わたしの骨の嗤う声 | 鮎貝 竹生 |
一日は二十四時間のわけだから、二十五時は生の終りを意味するのだろうか、ラ ンプの消えるその時を。しんしんと更けゆく冬の夜、己の生をみつめ続けている。〈松田ていこ〉 | |
愁いという刺激もあってシナプス | 谷沢けい子 |
神経細胞の結合部をいうシナプスは、感情の伝達部でもあるのだろう。愁いをも 刺激と捉えたところに川柳味があり、愁いに染まってしまう神経細胞が想像される 。この人工的な神経回路に用いられる言葉により、自身の神経細胞を客観的に見る 視線が感じられる。〈岡田俊介〉 | |
たっぷりと雪を含んだ絵筆かな | 松田ていこ |
絵手紙の柚子に蕭々小夜時雨 | 月野しずく |
切り分けるアップルパイと寒の月 | 吉見恵子 |
北斎の江戸のその後を落葉する | 岡田 俊介 |
ふくふくと雪の吐息となる二人 | 岩崎眞里子 |
影の人の音符ほしがる冬の耳 | 細川 不凍 |
会いに行く冬の夜風を横抱きに | 松村 華菜 |
うす紙へ連ねる雪のうつらうつら | 林 勝義 |
てのひらの雪から放すぴんくの麒麟 | 澤野優美子 |
木に寄れば木になる青い語り部たち | 板東弘子 |
領海のここに夕焼け眠らせる | 山崎夫美子 |
2018.3.22