琳琅 No.163 2020年7月号より②
回想のながい頁を黄のカンナ望月 幸子
 カンナの黄の色が印象的な句である。カンナは真夏の炎天下に大きな花を咲かせる。作者の回想の長いページを、太陽のような黄のカンナが見守っているようだ。〈吉見恵子〉
時が抜かれて影のない版画佐々木彩乃
 時が流れたのではなく、抜き取られてしまったという表現にやるせなさを感じます。何を彫ってあるのか定かでない色褪せた版画。それは自分の上を流れ過ぎた時間と重なってくる。歳を重ねるごとに今まで何気なく見過ごしてきたものにも敏感に反応するようになる。〈みとせりつ子〉
鏡台の裏 長話まだ続く宗村 政己
 この鏡台は世間を写す鏡のようだ。「鏡台の裏」では、何やら「長話まだ続く」状態なのだ。この鏡台の表と裏では、世間の評価が違って聞こえてくるのだろうか。〈吉見恵子〉
速達は乾いたポストに投げ込まれ立花 末美
 アンニュイな気配が漂ってくる。ポストに投げ込まれた速達の音を、乾いた音のように感じている。この「乾いたポスト」は、作者の心かも知れない。屈託している心をポストと表現したものかもしれない。〈吉見恵子〉
ははの帯しめ月光を遡る福田 文音
 「月光を遡る」とは美しい言葉である。月光の下、和服姿の女人のシルエットが浮かんでくる。亡き母のいる時間へとタイムスリップをしているのだろうか。母の帯を締め、母への思慕の時間を漂っている。その想いに呼応するかのように、母の帯が銀色に輝いているようだ。〈吉見恵子〉
灯せば春をやがては秋を放つランプ岡田 俊介
ひたひたと膝はいあがる水を見ている吉田 州花
生きものの盛る地平を夢飛行細川 不凍
赦されよさくら吹雪に身を置きて西条 眞紀
太郎いる昭和の扉開けたればみとせりつ子
リアス式海岸という別れ方中嶋ひろむ
生き残るつもり雨のきらきらと桂 由輝花
玉ねぎを剥いたぶんだけ紐のいろいろ伊藤 寿子
青き日のコンテを風がまた捲る氈  受彰
ある日から巣籠もるがごと花の思惟越智 ひろ子
ネクタイが曲がったままの有識者小川 尚克
夢を見るこの世の隅のブランコで松村 華菜
2020.8.9

PAGE TOP