琳琅 No.164 2020年9月号より①
露草のマスク震えている花弁岩崎眞里子
 藍色の愛らしい小花をひらく露草の花。その花汁は染料になるが、命は短かく、たった一日で萎んでしまう。コロナ禍の中、そんな小さな命を守ってあげたいという母性が、詩的にはたらいた「マスク」なのだ。眞里子さんの手にかかると、社会現象でさえ、メルヘン仕立ての句に昇華する。〈細川不凍〉
 露草の句は、ドラッグストアに行列で並んでもマスクが買えないという心細さ。間に合わせにキッチンペーパと輪ゴムで作る方法が紹介されていた。マスクを当てて震えている精神的弱さは露草のはかなさイコール人間。と何もできない脆さがあらわになった。〈伊藤寿子〉
黒人の拳を花の中に見る古谷 恭一
 映像で観たかぎりでは明らかに人種問題。デモで建物、車を壊す人々の中、SNSで上げられた黒人男性が少年へ伝えようと声を大にしていた言葉。歴史上何百回何千回と同じことが繰り返されていたが、握った拳を振り上げることなく静かな集団のデモ行進になって来ていた。内なる思いを押え込める行為を花に譬えて「花の中に見る」は、暴力では決して解決しないこと。それを訴えた映像を賛美している。〈伊藤寿子〉
航跡の白らに夏の日を探す月野しずく
 船に乗った時にデッキに出てみると、波は船の形に泡立てて線を引く。作者の目は真白な航跡に夏を探り、勢いよい白波は若い時代を彷彿させる。キラキラ光る水平線に地球の大きさと青春を重ねている。〈伊藤寿子〉
瘡蓋の下さざ波が眠らない伊藤 寿子
 心の傷は癒え始めたように想われたのに、細波立つ眠れない夜を過ごしている。頭の中ではどうにか解決済みでも、心のどこかで納得し得ないものがあったのだろうか。繰り返し襲って来る心の細波を、持て余している。〈吉見恵子〉
掬う手に青磁色めく水の闇越智ひろ子
 作者は、手の中の清水に闇を見ている。眼を凝らし、水の中の闇を見つめている。この清水にさえ闇はあるのではないかと見つめている。また、どんな闇を潜り抜けて清水となり、私の手まで辿り着いたことだろうと。光と闇の二面性を、心静かに見つめているようだ。〈吉見恵子〉
和服姿の恩師腕組むオンライン小川 尚克
 ウイズコロナの時代になって、必要に迫られ、オンライン会議、オンライン飲み会、オンライン句会などが行われるようになった。肉体的にも経済的にも、遠い人達と対話ができるのは便利であるが、画面に日常の生活や服装、表情や態度まで伝わってゆくのは少し抵抗がある。当然のように、電話より情報量が多いのである。この句は、このような進化した情報化の現代を切り取り、和服に腕組みして登場した恩師の人物画を描いているようだ。恩師の健在ぶりに安堵しつつ、おずおずと腕組みして画面に出てくるおかしみを切り取った、一句でもある。〈吉見恵子〉
風青むびいどろカップと涼の椅子吉 田   浪
人の目にひそむ童話を見たか紫陽花岡 田 俊 介
閉ざさりし障子の影絵に蝶遊ばせり西 条 眞 紀
菓子袋空になるころ母の忌来る細 川 不 凍
傘立てにステッキ朝日を受けている吉 田 州 花
泣き声を入れるみどりの化粧箱月 波 与 生
一望に緑を抱けば我が住所富 永 恵 子
花器のカラーで蟻は邯鄲のゆめ谷 沢 けい子
青空の中に静止の観覧車鮎 貝 竹 生
本棚に凭れて無題なる空間松 井 文 子
つなぎ目が蝶だったのね風になる伊 藤 礼 子
2020.9.10

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