琳琅 No.165 2020年11月号より①
淡く淡くいのちのすきまになお淡く西条 眞紀
 「淡く」の繰り返しは、線の細さと脆さを覗かせるが、それを撥ね返す「いのちのすきまになお」の潤いのあるフレーズが効いていて、総体的に撓りのある美しい文体に仕上がっている。祈りの一句であるが、繰り返し読むうちに、「いのちのすきま」の傍らに佇むたましいたちが見えてきて、"靭くあれ"と声をかけたくなった。色で云えば、〈限りなく透明に近い水色〉がイメージできる作品だ。〈細川不凍〉
こいびとはなつにゆられてきた粗品澤野優美子
 こいびとが粗品を持って現れたのではなく、粗品そのものになっているという。粗品は高価なものでなく、タオルや洗剤等日用品が多い。もらう方も受け取りやすい。暑い夏の日のこいびとは、気兼ねなく接することのできる関係がいいのかもしれない。〈西田雅子〉
法廷にじいんじいんと蝉が鳴く古谷 恭一
 人が人を裁くという人が作った法により裁く法廷。一方、蝉の声は自然の法則に従って鳴いている。じいんじいんと法廷に染み渡る蝉の声が、そこにいる人々の交差する心情をも表しているようだ。法廷と蝉の声の対比が、人が人を裁いていいのかと問われているように思う。〈西田雅子〉
輪郭を濃いめに朝霧を発つ伊藤 寿子
 この句から、歌川広重の「東海道五拾三次之内 三島 朝霧」が浮んできた。三島大社の鳥居前が朝霧に包まれ、その中を旅人が行き交う。町並みがシルエットで浮き上がり、遠くの旅人が影法師で表現されるなど広重の斬新な表現力に魅せられる。作者の住む帯広は、十勝平野のほぼ中心にある。十勝の夏の太平洋岸は、一年を通して流れる親潮(寒流)と、春から夏にかけて北上する黒潮(暖流)が接することから、海霧の多いエリアのようである。この海霧が時として内陸部に入り込んでくる。この句は、朝霧の中で作者が旅発つ様子を詠んでいる。「輪郭を濃いめに」が、霧の中に飲み込まれそうになりながらもそれに抗うように輪郭が現れ、また消えてゆくような、霧の中で旅立つ雰囲気が上手く表現されている。〈吉見恵子〉
青き朝身ほとり清し草の露吉田  浪
露の身にひとつぶの露きらめけり吉田  浪
 こんな朝を迎えたいと思う二句。「青」「朝」「露」と揃えば身を清められるしかない。あるいは太古の昔の朝はこのような明け方だったのかもしれない。暗闇から少しずつ青みがかってゆく空。はじめに目覚めるのは露。その露は朝の光を受けて一番に朝を映し出す。〈西田雅子〉
黒百合の輪郭ひろがって 夏に岡田 俊介
夕焼けの一本道を絵巻にしてみとせりつ子
逆夢も醒めて一筆箋になり月波 与生
口笛が途切れ月夜の芒たち天野 唯子
引き寄せたものを解けば星曇り吉見 恵子
今年米届く一粒ごと今年松井 文子
一日が並び夕陽の輪をくぐる岩渕比呂子
原木をチェーンソーして第二案重田 和子
母の桔梗潰す遊びにも疲れ谷沢けい子
詠み人になりきる夕の此岸かな細川 不凍
2020.11.10

PAGE TOP