琳琅 No.165 2020年11月号より②
笑えないピエロが坂の上に立つ姫野 彩愛
 「笑えないピエロ」は笑おうとしても、それを抑圧するよんどころない心理がはたらいていることを示唆する言葉だ。「坂の上に立つ」という状況設定も、その辺の事情を踏まえてのこと。転がり落ちるかも知れないギリギリの位置で、自分を試すかのように、懸命に立っているのだ。その精神力を僕は信じたい。自己凝視から自己戯画化に至るプロセスは、相当きついものがあった筈だ。自身への甘さを払拭した哲学的な思索が、この優れた作品の基盤を形成している。〈細川不凍〉
雨乞いの太鼓の記憶梅雨が明けない吉田 州花
 ここ何年かは豪雨や台風による水害に比べると、雨が少ないことによる干ばつはあまり聞かない。雨乞いの神事として使われる太鼓だが、今年の長い梅雨には記憶の底で鳴り響くだけ。水害も干ばつも同じ水の神さまによるならば、太鼓の響きが神さまに届いてほしい。〈西田雅子〉
ひと房の葡萄と風と文庫本氈受  彰
 コロナ禍の閉塞した社会状況の中、至福のいっ時を過ごすにはこの上ない三点セットである。清潔な表出が心地好く、僕もこのようなシーンを味わいたかった。〈細川不凍〉
こころ病むひと日言の葉を煎じ林  勝義
 この句は、何かに悩める一日を詠んだものと思われるが、その処方箋としての「言の葉を煎じ」という言葉に惹かれた。果たして、特効薬となる言葉は見つかったのかどうかは解らないが、様々に言葉を巡らし、心を宥めているようである。〈吉見恵子〉
うるし闇やがて津軽の雪がくる福田 文音
 青森県の伝統工芸品津軽塗は、漆を塗っては乾かし、それを研ぐという作業を何度も繰り返し、五十の工程と二か月余りを費やすことで独特な斑点模様が生み出される。この句は、その技法の「うるし闇」の中からは「雪」、やがて訪れる厳しい冬を想像している。〈吉見恵子〉
とある日の終わりの先にいる婆よ鮎貝 竹生
傷口はプレパラートの自己証明杉山 夕祈
新月の記憶ぬぬっと匂う生木岩崎眞里子
崩れゆく神話ゆっくり泥を吐く新井 笑葉
水中花 小論何度直しても月野しずく
飲み込んだ涙は大人の流儀です立花 末美
スタンバイミー入道雲に手を伸ばす野邊富優葉
かわりなき暮らしこつんと濃く匂う越智ひろ子
振りあげた言葉を吊るす鎌の月松村 華菜
寒かろう十五で開いた耳の穴伊藤 礼子
ありがとうからさようならまでつづく橋中嶋ひろむ
2020.12.11

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