琳琅 No.168 2021年5月号より②
淋しさを一滴まとう より自由吉見 恵子
もじの森ななめに鳶ふれてゆく吉見 恵子
 先号には「鳥のように天へ落ちてく枯れ葉と吾」という作品があり、自由に大空を飛び交う鳥世界を仰ぎ見ている日常を感じた。一滴の淋しさを纏って颯爽と文字の森を飛び行く鳶は創作世界の作者だろうか。〈岩崎眞里子〉
雑踏のヒッチコックをズームイン古谷 恭一
 『裏窓』『サイコ』等のサスペンスやスリラーの傑作映画でお馴染みのヒッチコック。彼は自作の映画にさりげなく登場するのが趣味で、よく人混みの場面を用いた。観る方も彼を探すのが愉しみで、「ズームイン」は発見時の快哉を伴う言葉だ。好奇心故の着眼点は豊富で、表現領域も実に広い。〈細川不凍〉
駆け付けた一人が告げるミモザの黄松井 文子
 ミモザは桜よりほんの一足先に咲く花である。香りは甘く優しい。羽毛のような明るい黄色の花を咲かせ、見る者に幸福感を与えてくれる。この句の駆け付けた一人が告げるのは、花よりも黄の色である。春光に輝くミモザの黄に春の柔らかな華やぎを感じたのだろう。喚声が聞こえてきそうである。マンサクや福寿草から始まって、菜の花、レンギョ、山吹などと黄は春の色かも知れない。〈吉見恵子〉
いつ死ぬかわからないからにらめっこ宗村 政己
 「にらめっこ」をするには、体力も気力も知力もいる。この句は「いつ死ぬかわからないから」にらめっこをするのだという。にらめっこは生きている間にライバルらとするもの。であれば、にらめっこに生きている充実感が湧いてくるものであろう。〈吉見恵子〉
落雷が春の升目を崩しゆく佐々木彩乃
 整然とした春の升目が、落雷によって崩されてゆく。想定外の事態によって、思わぬ方向へ崩れて行ったことを詠んでいる。春は様々な門出や節目の他、新しいことを始める季節でもあることから無念さが伝わってくる。〈吉見恵子〉
恋人よこれは時候の桃だより澤野優美子
アネモネの沈黙と居る青い時間吉田  浪
もう指はペンを欲しがる病み上がり細川 不凍
凍裂が響く百年の置き手紙伊藤 寿子
生いたちの夕日重ねている群青岩崎眞里子
束縛を解く一枚の水が揺れ新 井 笑葉
ゲームチェンジへ直角に刺す注射針野邊富優葉
春ひと日甘夏ピールの香の満ちて越智ひろ子
お一人様ですかと月下美人咲き中嶋ひろむ
風か君か海に向かって立つ風車伊藤 礼子
原子炉の休止煮炊きの煙立つ谷沢けい子
風鈴を鳴らして消えたのは誰だ潮田 春雄
2021.6.10

PAGE TOP