

琳琅 No.170 2021年9月号より②
うつくしき年輪 遊びつくさんや | 中嶋ひろむ |
人間は様々な星の下に生まれて、それぞれの人生の年輪を描いて行く。飛躍したり伸び悩んだり停滞したり、常に安定した年輪とすることはできなかったかも知れないが、一生懸命生きてきた分だけそれぞれに美しい年輪であると思いたい。「遊びつくさんや」とは、今となっては残りの人生を全うし、燃えつくしたいという思いだろうか。〈吉見恵子〉 | |
鬱の書き順を諭す濃いめのカルピス | 澤野優美子 |
どうしても好きになれない文字の一つに鬱がある。筆順を考えながら正しく書くなんてとても無理。でも重い気分の時「濃いめのカルピス」は甘く柔らかな刺激で諭すように気付かせてくれる。今もカルピスが好き。〈岩崎眞里子〉 | |
初盆の母へ忘れぬ昼花火 | 大谷晉一郎 |
初盆の母を迎えるべく準備に、「昼花火」は忘れてはならないものの一つのようである。作者において、昼花火で初盆を迎える風習があるのかどうかは解らないが、元々花火には、供養や鎮魂の意味が込められて打ち上げられてきた歴史がある。このような点からも、初盆の母の霊魂を迎えるための音花火を景気よく鳴らし、再会を心待ちにしている作者が見えるようだ。〈吉見恵子〉 | |
通せんぼ風倒木のあるかぎり | 古谷 恭一 |
茄子かぼちゃ星月闇を沁みこませ | 岩崎眞里子 |
てのひらの青き追憶桐の花 | 松田ていこ |
放心の視野戯れる小鳥たち | 小川 尚克 |
緑陰の樹を茂らせる葱きざみ | 吉見 恵子 |
花束をほどいて歳時記に戻す | 谷沢けい子 |
螺旋階段昇る 消えて行く予感 | 鮎貝 竹生 |
青葡萄一房づつの山河かな | 望月 幸子 |
猫消えて夕焼けだけが残る穴 | みとせりつ子 |
年齢のあわいにひそと月見草 | 岩渕比呂子 |
落陽に殉じる鳥も人影も | 細川 不凍 |
2021.10.10