琳琅 No.172 2022年1月号より①
十五夜の月が李白にしてくれぬ 氈受  彰
 秋の美観を象徴する言葉に、<紅葉>や<こぼれ萩>等がある。「十五夜の月」も<仲秋の名月>として周知されていることだ。「李白」は孟浩然、杜甫らの出た唐詩最盛期の詩人の一人。酒に耽溺しながらも、明るく幻想的な詩を書いた。奇行が多く最後は泥酔し水面に浮かぶ月を捕えようとして溺死したと伝えられている。掲出句は十五夜の月の凛とした美しさに見入ってしまい、李白のように幻想的な詩を作ることも、奇行に走ることもなかったというのが内意。想の始まりは、美意識に依るところが大きいが、表現の段階では理知が冴えていて、全く無駄のないスマートな句と云える。 〈 細川不凍 〉
続編は象の背中で寝る始末 澤野優美子
 ショーの続きを楽しみにしていたのに、肝心の像使いは象の背中で眠りこけている。体言止めの「始末」から、その落胆の様子が看て取れる。優美子ワールドのウイットに富んだ面白みが表出されていて、愉しむことができた。時に奇知をも感じさせてくれる処が凄い。 〈 細川不凍 〉
左右の足に長女と次女の違いほど 野邊富優葉
 日々の習慣などから左右の足の長さの違いはよくあることで、整骨院などで引っ張って簡単に直してもらった経験のある人もいるだろう。作者は、その足の長さの違いに驚いて、「長女と次女」の性格の違いのようだと家庭内事情でユーモラスに表現している。 〈 吉見恵子 〉
晩秋へ彩くきやかな口紅(べに)さがす 松田ていこ
始まりがあって砥石の濁り水 岩渕比呂子
懐かしき語尾歳月のミルフィーユ 松井 文子
不揃いの椅子を揃えているふたり 中嶋ひろむ
手を洗う それだけでもう傷だらけ 伊藤 礼子
落葉のどこで散ってもひとつの死 吉見 恵子
パントマイムなおじぎイチョウの逝き方で 伊藤 寿子
水面に映る私小説よさようなら 西条 眞紀
冬帽や関東平野澄み渡り 鮎貝 竹生
愛は放たれ秋に放たれ生殖す みとせりつ子
ふるさとや帰る家なし秋祭り 田中 澄雪
2022.1.10

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