琳琅 No.172 2022年1月号より②
始まりは一滴 殉教者のごとく姫野 彩愛
 どんな物事にも始まりはある。それがたったの一滴であったとしても、殉教者のごとき覚悟と情熱があれば、一滴が一滴を呼び、そのまた一滴が更なる一滴へと流れは生じ、いつしか大きなうねりとなっていくのだ。「殉教者」に触発されて、世界的な宗教を想い描いてしまったが、長い長い氷河期の終りを告げる一滴から、ガンジス川のような大河が誕生するに至った、とイメージを脹らませても面白い。"一粒の砂の中にも宇宙は在る"と云ったイギリスの詩人がいたが、「一滴」の中にも壮大なロマンの世界は存在するのだ。渇望をエキスにした句。〈細川不凍〉
純哀歌 青なるもので埋め尽くし杉山 夕祈
 「青」は悲しみの色。「純愛歌」を満たす色だ。「青なるもの」は漠然としているが、それが却って漠とした悲しみを押し広げる。古代日本語では<アカ・クロ・シロ・アオ>を固有の色とし、アオは「漠」を原義とすると云われるのだから、先ず以て知性に訴える夕祈句だ。〈細川不凍〉
木偏山偏 私色が匿せない吉田 州花
 面白い句である。木偏からは森や林、山偏からは岬や嶺などの漢字が思い浮かぶ。動物や植物はそこで上手く身を匿すことができるが、作者は、「秋色が匿せない」と言っている。つまり、どこで何をするにしても全ては「私色」であって、皆滲み出してしまうものだと言う思いのようである。「木偏山偏」という無意味性の中に、どこにも匿せない唯一無二の自身を浮かび上らせている。〈吉見恵子〉
穹と書く穹より深くなるために古谷 恭一
朝よりも大きく見える夜の牛岩崎眞里子
手に枯葉 病の去った日の枯葉岡田 俊介
茶封筒ホタルになった父がいる福田 文音
音の無いひとり芝居の夜を演ず新井 笑葉
君すでに枯野に包囲されている立花 末美
萩はいま南病棟303吉田  浪
厄神札の門戸を叩く蓑虫よ大谷晉一郎
25時魔女の仮面をそっと脱ぐ山下 華子
銀河への階段が伸ぶ寂しい月松村 華菜
この人の風と紡いでゆく夜空林  勝義
2022.2.10

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