琳琅 No.173 2022年3月号より②
半熟のコトバとあそぶお辞儀して澤野優美子
 いつも新鮮で楽しい表現を見せてくれる作者。今号は「半熟のコトバ」である。半熟とは未だ出来上がっていない過程であり、たくさんの可能性を秘めている。そして言葉ではなく「コトバ」という表記も未だ定まらぬ流動的な状態と解した。だから〈よろしくお願いします〉と丁寧に一礼して楽しく遊べるのである。自由なコトバ達との良い関係を保つために礼儀は欠かせない。〈岩崎眞里子〉
雪を掻くモーツァルトのト短調吉田 州花
 モーツァルトのト短調を調べてみた。モーツァルトのト短調は交響曲の二曲だけで、宿命的な調べと言われ、特別な意味を感じさせる曲であるという。音楽に疎い私にもこの冬は特別であるということが伝わって来た。〈岩崎眞里子〉
青々と消えた痛みが根を伸ばす岩崎眞里子
 人間の記憶とは、とても奥深いものである。過去の記憶などとっくに忘れていたはずが、突然顔を出してシクシクと痛み出す。この時、いかに深手を負っていたかに今頃になって気づくのである。この句は、「消えた痛みが根を伸ばす」と詠んでいる。地中深く根を張って、簡単には痛みから解放してくれないかのようだ。「青々と」ぶり返す痛みは、作者に何を問いかけているのだろうか。〈吉見 恵子〉
火のいろはもはや望めぬ渚を歩く岡田 俊介
雪ふかきこの世の縁(へり)に匂う花松田ていこ
炒り豆の弾けて誰も皆 墨絵大谷晉一郎
リンゴの酸味冷え冷えの唾液吸う福田 文音
誰も来ない裏庭に置くレモンの木伊藤 礼子
パレットの夕日沈まぬまま暮れる新井 笑葉
花筏 余に幾万の飢えし影ぞ林  勝義
夢はまだ捨てずに明けて光来る富永 恵子
未使用のスイッチ隠すヒヤシンス立花 末美
街の灯の届かぬ先に占い師吉見 恵子
師の影を夏の波光に見失う藤本 健人
2022.4.10

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