琳琅 No.174 2022年5月号より①
ただここに桃の一灯母として吉見 恵子
 "灯りを点けましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花・・・"と続く童謡『嬉しいひなまつり』を、母娘で仲睦まじく唄う光景が見えてきて、ほっこりする。「ただここに」の切実感のあるフレーズが「桃の一灯」を、一際美しく煌めかせている。母と娘の決して侵すことのできない聖域としての「ただここに」なのだ。夾雑物を排したスッキリとした句姿も魅力的だ。純なる想いの、純なる表現が清清しい佳什だ。〈細川 不凍〉
戦争が始まっている狐雨古谷 恭一
 超大国のロシアが隣国のウクライナに、軍事侵攻した。オリンピックが終わり、パラリンピックが始まろうとしている〈平和の祭典〉の時期にだ。「エッ、何でいま」と誰しも思った筈だ。そんな狐につままれたような心境を内含させ、川柳の機会詩的役割を活かす句だ。ミサイルや戦車で無辜の民をも殺戮する戦争を指示した独裁者には、必ずや天罰が下る。〈細川 不凍〉
七色のページがあってやがて完伊藤 礼子
 作者にとっての理想の一生を描いている。人生を捲ってみれば、そこに「七色のページ」が光を放っているのだ。誰もがこんな思いで、最終ページを閉じたいと思うだろう。人生は人様々かも知れないが、その中に「七色のページ」がありさえすれば、それぞれに満足な人生だったと思うに違いない。そんな思いをさらりと詠んだ一句である。〈吉見 恵子〉
身の棘をコロナマスクで封じ込む佐々木彩乃
時は流るにいにしえの梅の種大谷晉一郎
凛々ときさらぎを弾く弦楽器松田ていこ
過去問をひらいて空蝉に近くなる澤野優美子
読み終えたページへ蹲るときひとり林  勝義
老春や浅き夢みしモンブラン中嶋ひろむ
かつて父母 家を灯して始まる寓話みとせりつ子
ウクライナの涙 乾く日を祈る松村 華菜
雪の夜の奥へ奥へと人の影松井 文子
口笛を吹くからいっそ寂しかり伊藤 寿子
一雫 黄河の月と睡りたし新井 笑葉
2022.5.10

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