

琳琅 No.174 2022年5月号より②
温もりは雨以上雪未満の鼓動かな | 姫乃 彩愛 |
精神的にも肉体的にも、生命を維持する上で「温もり」は不可欠だ。殊に病気や怪我で大きなダメージを受けている時ほど、それは求められる。「雨以上雪未満の鼓動」は、"雨ならまだしも、雪ともなると・・・"という寒気が及ぼす微妙な心の動きを巧みに表出しており内観の冴えを感取できる。〈細川 不凍〉 | |
ユトリロの壁 手触りはまだ真冬 | 氈受 彰 |
この句の表現の主旨は、「手触りはまだ真冬」である。暦では春を迎えているものの、実感として残る真冬の感覚を「ユトリロの壁」で表現している。モーリス・ユトリロは、家、小路、教会、運河などパリのモンマルトルの風景を白色多用で描いたフランスの画家である。その白い壁は、漆喰を混入して壁の感触を表現しているという。家々の薄汚いむき出しの壁は、寒々しくも詩情と静謐さを漂わせている。この句は、そのユトリロの寒々しい詩情の壁で、まだ寒さの残る浅い春を表現している。〈吉見 恵子〉 | |
地図はいらない 春はまっすぐ進むべき | 吉田 州花 |
迷いなく自信に満ち溢れ、作者らしい気質が存分に発揮されている句である。羅針盤は良好。地図などなくても、好奇心の赴くまま真っ直ぐに突き進めば、自ずと、自分らしい春の道は開かれてゆくようだ。〈吉見 恵子〉 | |
連なりてひとりふたりと錆びゆくよ | 吉田 浪 |
振り出しへ仕立て直しの白いシャツ | 岩渕比呂子 |
生きてなお奏でる十指寒の糸 | 越智ひろ子 |
白鳥の湖な凍りそ永久に | 小川 尚克 |
絡繰人形の口あれば おぼろ夜を | 岡田 俊介 |
臨死より戻る弟 浅き夢 | 重田 和子 |
二夜三夜命を懸けてぎゃーてぃ羯諦 | 西条 眞紀 |
熱二日雪のくずれに似る姿勢 | 福田 文音 |
忍びよるものを味方に子を連れて | 岩崎眞里子 |
明日もまた逢えるつもりの二月尽 | 野邊富優葉 |
蛇うたれ遠き花郷は白く揺れ | 杉山 夕祈 |
あらあらしき世に無言のことわりを | 望月 幸子 |
2022.6.10