琳琅 No.175 2022年7月号より①
春愁や小麦の国を鉛色吉見 恵子
殺戮の街に輪郭なきあした杉山 夕祈
 ウクライナの国旗は青と黄の二色。青は青空を、黄は小麦畑を象徴する。そんな世界有数の農業国を、ロシアが軍事侵攻した。病院、学校、駅、教会、民家等々手当たり次第に破壊し、人々を殺戮した。ロシアとは同じ隣国でも、私達日本人は胸に痛みを覚えつつも、「春愁」で済む。だがウクライナの人々は嵐の真っ只中で明日知らぬ身、「輪郭なきあした」なのだ。子供の頃、意味も分からずに「メジロ、ロシア、野蛮国・・・」と続くはやり詞を口遊んでいたことを憶い出す。〈細川不凍〉
種まきも収穫もない鳥なれば吉田 州花
 この句は、「種まきも収穫もない」鳥に憧れているかのようである。鳥であれば、人間のようにあくせくと働き悩まずとも、自由に空を飛び回っていられるものをと思ったのかも知れない。どこか呑気な空気感があるものの、コロナ禍を耐えてきた洋品店の経営者であればこその、視点と思いに違いない。〈吉見恵子〉
過去問がさくらさくらとリダイヤル澤野優美子
 きっと過去問集で一生懸命勉強した身内と思う。さくらが咲いた、と言えば合格の印、結果を知りたくて電話をするが話し中で繋がらない。リダイヤルに焦りを感じるが、大丈夫と言いたい。過去問の暗さと、現在目のあたりにしている桜に対比が生まれ、句が明るい。〈伊藤寿子〉
惜春になるかなかすり傷ひとつ細川 不凍
縄文の夕日が綱にぶらさがる新井 笑葉
一本のバラを残して さよならを岡田 俊介
鳥の名を覚えた森が死んでいる大谷晉一郎
あどけなき動画五月の母ならむ松井 文子
父の樹のてっぺんに置く春の鳥中嶋ひろむ
森の奥へ奥へとこの身眠らせにみとせりつ子
ガリ版と鉄筆詩編らしき跡小川 尚克
春の樹のてっぺんまでを風そよぐ望月 幸子
風船が飛び立つ喪の家辺りから立花 末美
やんごとなきを終えて安堵の花筏越智ひろ子
2022.7.10

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