琳琅 No.176 2022年9月号より②
ひまわりの首折りたたむ墓標杉山 夕祈
 名作映画「ひまわり」のテーマソングにのって映し出されるひまわり畑。戦争によって引き裂かれる男女の愛と別れの物語。ラストシーンのミラノ中央駅での永遠の別れ。遠ざかる汽車を見送りながら、嗚咽するソフィアローレンの姿は何度見ても胸を締め付けられる名場面である。戦争とは個人の運命を根こそぎにしてしまうものなのだ。もし、時間を操れる天使になれるなら、AIロボットなど存在しない、人間が素朴で純朴であった時代に引き戻したいと願う夕祈さんの思いが「仮象して・・・」の名句に繋がった。〈みとせりつ子〉
三コマ目から産毛が光るしたたかに澤野優美子
 詩意を一転させる起承転結の〈転〉を巧みに利用した作品だ。普段は省みられることのない存在である「産毛」に目いっぱいのスポットライト当てた大胆にして繊細な表現がいい。産毛だって主役になれるんだよ、と作者は主張したいのだ。〈細川不凍〉
喝采の俊足夜空駆け抜けり小川 尚克
兄を亡くして悲しみに暮れる一連の句である。この句は、若かりし日の兄の「喝采の俊足」に焦点を当てて、兄らしく、疾風のごとく夜空を駆け抜けて行ったに違いないと愛情を込めて詠んでいる。この俊足から、句に流れ星のようなスピード感が生まれた。〈吉見 恵子〉
まひるまの男独りの焦げつく時間細川 不凍
木の匂い語らず兄は星合いの空立花 末美
木ぼとけの疵が疼いて慈雨となる新井 笑葉
Z世代コンチキチンと奏でる世重田 和子
おぼろなる妻母女 水になれない吉田 州花
淋しいと言えば淋しくなる月夜山下 華子
さざ波 さざ波ひらがらの刻ゆさゆさと吉田  浪
芯のない鉛筆削っている 戦中嶋ひろむ
飴いろの文庫をひらく遠く来て望月 幸子
あじさいの彩褪せ無口なる仲間伊藤 寿子
違和感にもらった夕焼け群青線岩崎眞理子
2022.10.10

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