

琳琅 No.179 2023年3月号より②
23時のドアを開こう吾子のため | みとせりつ子 |
「23時のドアを開こう」の感動的フレーズが心の奥まで響いた。子との間に生じた心の隙間を、寒い風が吹き抜ける前に(その日のうちに)、不満や不信などの胸のつかえを少しでも解消しておこうとする母の切なる行動なのだ。自らの痛みばかりでなく、他者の痛みをも引き受けながら書くりつ子さんの内燃するエネルギーは並大抵のものではない。〈細川不凍〉 | |
獅子吼して口より出でし鬼と泣く | 伊藤 礼子 |
「獅子吼(ししく)」とは、大いに雄弁をふるうこと。相手に雄弁をふるって、つい言わなくてもいいことまで言ってしまった。相手を傷つけたが言った本人も深く傷ついて、口を出たその鬼と一緒に泣くことになったのだ。後悔と共に、悲しみの海が広がってゆくようだ。〈吉見恵子〉 | |
新調の覚悟よろしきスニーカー | 松井 文子 |
身体機能の衰えを感じてから転倒が怖くて気楽に歩けなくなった。元気で老いるためにも二足歩行は死守したい私にとって「新調のスニーカー」はとても新鮮だった。ああ…作者の健脚は覚悟と努力の結果でもあった。〈岩崎眞里子〉 | |
小春日を煮込むひと日や柚子ピューレ | 越智ひろ子 |
水仙のうなじ言の葉まだ知らず | 小川 尚克 |
落葉の友をうずめて風の刻印 | 吉見 恵子 |
無言の窓開いてみればスイートピー | 福田 文音 |
仮想して晩夏の花の揺れやまず | 杉山 夕祈 |
結界ゆく母のかくまき雪しまく | 伊藤 寿子 |
もう少し先の世界と時雨たし | 岩崎眞里子 |
おかげさまおかげさまでとさいている | 中嶋ひろむ |
霜光る 遠くに冬の鼓笛隊 | 氈受 彰 |
夜の雪消え潔白は晴れぬまま | 谷沢けい子 |
天つよりとわにきこゆる雪のこえ | 望月 幸子 |
2023.4.10