琳琅 No.180 2023年5月号より①
春光の魚影喃語を躍らせて伊藤 寿子
 春先の北海道、特に積丹や小樽の沿岸では群来(くき)という現象が起こる。春告魚の異称を持つ鰊が産卵のため、浅所に押し寄せる魚群を云うが、海は見事なまでに白濁し、その光景は風物詩としても知られている。掲出句の「喃語」は睦まじく語ることだが、それを「躍らせて」と表現しきったところに作者の思い切りの良さを見る。「春光の魚影」のフレーズでも、詩情を脹らませるはたらきがあって、生命讃歌の秀吟として推称したい。〈細川 不凍〉
野の花粉浴びて戻れぬ影法師大谷晋一郎
 NHKの連続テレビ小説「らんまん」がこの4月以降始まるが、主人公は、「日本の植物学の父」と呼ばれた植物学者の牧野富太郎がモデルだという。これに先立ち、朝井まかての「ボタニカ」という彼の波乱万丈の人生を描いた小説を読んだばかりなので、この句が妙に重なった。勿論、この句の「影法師」は作者自身に違いない。花好きな作者が、春の野遊びに夢中になって、何処までも何処までも憑かれたように花々の中を掻き分けてゆく。「野の花粉浴びて」の映像的なフレーズがこの句の魅力〈吉見 恵子〉
ポロリンと朝は卵を生みましょう吉田 州花
 目に見える映像がなんとも楽しい。朝は一日のはじまり、活力は生命力でもある。軽快な音楽が流れている。ポロリンと卵は二こか三こか。笑みがこぼれる。〈新井 笑葉〉
抜けがらの一人芝居を見るように新井 笑葉
争いの遺伝子たどり記紀神話谷沢けい子
冬帽子 賢くならず愚にならず岩渕比呂子
黙り込む透かし模様の虫のごと斉藤 豊子
ダリが来るカイゼル髭が街とおる吉見 恵子
過去という行灯にまた灯を入れる松村 華菜
さよならを言えなかったねワンピース姫野 彩愛
錯覚のまま凍らせた冬の恋伊藤 礼子
粛清の吹雪が止んだバラライカ古谷 恭一
どういたしましてと月を渡される中嶋ひろむ
巡礼の地ふわりほろりと春の雪みとせりつ子
2023.5.10

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