琳琅 No.181 2023年7月号より①
戦まだ欠けた十字のある大地岩渕比呂子
 独裁者プーチンのロシア軍がウクライナに侵攻してから1年数ヶ月、未だに終りが見えない。肥沃な黒土地帯にあってヨーロッパのパン籠と呼ばれる美しいウクライナの大地を、ミサイルやロケット弾でズタズタにし、一般の人々の血で染めたロシア軍。そのロシアの宗教はロシア正教。被害者側はウクライナ正教。共に十字架をシンボルとするキリスト教である。掲出句の「欠けた十字」は侵略側のイエスの教えに反する暴挙を暗示し、また侵略された側の痛みや苦しみを象徴する言葉でもあるのだ。作者の無謀な戦争に対する怒りや悲しみが、キリリとした諷刺作品となって屹立させた。〈細川不凍〉
まなうらに都を燃やした痕がある黒田 弥生
 静かな回想の中に、激しい恋の炎を想像させる句である。「都を燃やした痕がある」の大胆な比喩から、恋人に会いたい一心で放火事件を起こし火刑に処された、「八百屋お七」が連想された。そのお七の物語りを引き寄せて、自らの過去の恋を描いているようだ。「まなうら」には、今も、その傷痕のようなものが揺らいでいるようである。〈吉見恵子〉
首のない首をかざして月が満ち新井 笑葉
 首のない、とは空白状態の自分自身のこと。首としてかたちはあるが、茫然とした自分が美しい満月に覚醒されてゆく。時間的経過があって「首のない首」が徐々に冴えてゆく作者。万人を照らす月へ畏敬の念も感じる。〈伊藤寿子〉
赤いバラに赤あるように 湖は岡田 俊介
ふりむけば ははのふところおおでまり福田 文音
つぎの世の桜はきっとあかずの間吉田 州花
結界のさくらが火元という噂細川 不凍
揚げ雲雀 天地四方の探しもの吉見 恵子
つくづくとひとりラジオの深夜便山下 華子
向日葵の海荒れ リア王の幻影中嶋ひろむ
輪廻とや逃げも隠れもせぬゆらぎ越智ひろ子
花吹雪流転の綾の真っ只中斉藤 豊子
一天をひらくさくらのゆるがざる望月 幸子
ひりひりと愛の渇きの刑の中松村 華菜
2023.7.10

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