琳琅 No.182 2023年9月号より①
ご挨拶に伺いますと岬から吉田 州花
 練達の表現者らしく、話し言葉を手際よく採り入れた能動的表現だ。挨拶回りの途中、息抜きに立ち寄った岬の眺望の素晴らしさに、リフレッシュする主人公。この先、対面する人との会話も弾みそうだ。と、ここまで書いたところで田宮虎彦の自死をテーマにした小説『足摺岬』を想い起こし、背筋が寒くなった。「岬から」の言葉が僕を刺激し、ミステリアスな世界に引き寄せたのだ。真夏の夜の過剰鑑賞である。そうさせたのも、作品にそれだけの詩的パワーがあるからだ。〈細川 不凍〉
絹雲の紅帯び薄れゆく縁谷沢けい子
 「絹雲」は巻雲ともいう。繊維状の細い雲が散らばった形の白い雲をいい、絹のように光沢をもつのが特徴である。この絹雲が「紅帯び」、つまり茜色に映えて、今まさに日が薄れ暮れようとしている。この夕暮れと同じく私の生もまた、この世との縁が薄れていきそうだ。と、茜さす夕暮れに自身の夕暮れを重ねて、この世の縁の儚さを抒情的に詠んでいる。〈吉見 恵子〉
今もまだ青いレモンの断面図吉見 恵子
 青春の日々を表現するにはピッタリの酸っぱくて瑞々しい「青いレモン」。青春期はどれ程多くの言葉を持ってしても表現しきれないくらい、実に多くの経験を積み上げてゆく時期である。作者にとってもそれは同じで、密度の濃い時間を過ごしたことだろう。〈みとせりつ子〉
潮満ちて引いて命のリフレイン氈受  彰
亡き母のゆかたの裾の蛍かな浜  知子
夫の星薄くれないの石積んで伊藤 寿子
生きてきた彩だなんだか温かい松村 華菜
雨の窓 想小刻みに流しゆく吉田  浪
肩の湿布連々と女系の匂い斉藤 豊子
吹きこぼす不馴れを責める朝の粥林  勝義
先人の教えのようには回らぬ辻重田 和子
風青し賢治の詩集ひらくとき松田ていこ
一年経て 診立て嬉しや 鰻食う田中 澄雪
偉そうに朝のてっかり夕の雨岩渕比呂子
2023.9.10

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