琳琅 No.182 2023年9月号より②
鮟鱇の目線で生きている美学新井 笑葉
 鮟鱇は両生類の山椒魚の異称でもあるが、ここは海に生息する魚類が妥当。動作が鈍く、「アンコウの餌待ち」などとぼんやりしている者や、愚か者の譬えにされる魚だ。見た目もグロテスクで、凡そ〈美〉からは遠い存在だ。しかし作者はそんな外観に拘ることなく、海の底でじっと目を凝らしながら、辛抱強く餌を待つその生き方に、「美学」を見出しているのだ。詩人の洞察眼を十分に感じさせてくれる作品だ。〈細川 不凍〉
瞬きもせずに向日葵なる金環松井 文子
このユーモアに満ちた視点は川柳の目だと感じた。向日葵は、夏を代表する花であり、今はウクライナの国花として見る者に様々な感情を抱かせ、ゴッホの「ひまわり」へ親近感をもたらすもの。この句では、「瞬きもせずに」と、花を大きな目のように捉えていて、その感覚の意外性を面白く感じるが、ふと、面白いばかりでなく、このような瞬きもしない向日葵に、作者は抵抗感もあったのかも知れないと感じた。〈吉見 恵子〉
向日葵がざくざく降りてアヴェマリア姫乃 彩愛
 「アヴェ」はラテン語で「こんにちは」「おめでとう」の意味。ひまわりは天使の化身。大勢の天使が天より降りてきて、マリアに向かい{こんにちは、マリアさま}{おめでとう、マリアさま}と声をかけている。作者の精神性が窺える。〈みとせりつ子〉
ふくろうの置物光る 霧の夜は岡田 俊介
行年九十三才母を囃すか糸とんぼ大谷晋一郎
わが駅と娘の駅絵本の頁を捲る西条 眞紀
白日傘あの世この世へ差し掛けて黒田 弥生
切り株の年輪おのずからドラマ小川 尚克
夏の午後積もる他なし酔芙蓉越智ひろ子
気にくわぬ軒だがチョイと雨宿り野邊富優葉
小指の背を擦ってみれば寒気団笹田 隆志
色の無い風と輪郭なき明日杉山 夕祈
塹壕を逃げ回るのはドブネズミ古谷 恭一
コスモスも人も重ねてゆく白さ岩崎眞里子
2023.10.16

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