琳琅 No.183 2023年11月号より①
仇敵がいる土蜘蛛の走る村古谷 恭一
 古代政権の大和朝廷は、服従しようとしない辺境の人々を〈土蜘蛛〉と呼んで蔑み危ぶんだ。この句の〈土蜘蛛〉も、それ自体不気味であるが、盗賊のような得体の知れぬ連中に譬えてもいよう。そんな従ならぬ村に、恨みを抱く敵がいるのだから、武者震いしない訳にはいかない。恭一さんのDNAには、高知の風土に培われた土着性がしっかりと組み込まれているようだ。日本の風土に根ざした横溝正史のおどろおどろしい怪奇小説の世界が展がってきて、ゾクゾクしながら愉しませてもらった。妖しさを好んだ片柳哲郎先生も、間違いなく、この作品を推称されるに違いない。〈細川 不凍〉
近未来海月の傘を透かしつつ黒田 弥生
 神秘的に浮遊する「海月」から、人間の「近未来」を想像している。そもそも人間は、海月と同じ海から生まれ進化を遂げてきた生き物。この海月と隔てたものは何だったのだろう。近未来は、この海月のような船に乗って宇宙を浮遊することとなるのかも知れない。〈吉見 恵子〉
八月はすずめだったか私だったか吉田 州花
 この作品を解読することはとても出来ないが、猛暑炎暑のオロオロ感が少し笑える雰囲気で伝わってきた。〈岩崎眞里子〉
八月の鳩尾に潮騒の滾り伊藤 寿子
ふと父のゲルベゾルテの沁みた指氈受  彰
急がねば言葉の野辺まであと少し西条 眞紀
荻の花かかえ起して母のこと富永 恵子
細道をどこまでもゆく子守歌岡田 俊介
猛暑日の軽い茶漬けとつげ義春福田 文音
悲しみはロシア周りの回送車岩渕比呂子
旅人にコスモス街道優しかり小川 尚克
雨乞いはわが水瓶のからからと吉見 恵子
愛おしく捲るページの病ダレ林  勝義
腫れものに触りつづけている残暑細川 不凍
2023.11.10

PAGE TOP