琳琅 No.183 2023年12月号より②
この星に命あずけるごと倒る | 岩崎眞里子 |
「この星」とは、母なる地球のこと。つまり〈地球愛〉の句。仏教の最高の礼法〈五体投地〉に通じるところがある。この星は今、国連事務総長の「地球は温暖化から沸騰化の時代に入った」の言葉が示すように、病気状態にある。その因をつくったのは私達人間で、物欲に走り過ぎた結果だ。ならば人間が〈地球愛〉の意識を高め、その治療に専念すべきだ。〈細川 不凍〉 | |
年寄せて泣く程はなし蚊遣香 | 斉藤 豊子 |
どこかしら粋で、涼し気な句である。「年々年を取るからと言って、何で今更泣くことがあるものか。何とかなるもの。」と、自身を鼓舞しているのだ。下五の「蚊遣香」にどこかしらユーモアがある。人生百年。不安がないわけではないが、不安ばかりを並べ立てても仕方がない。この気概に脱帽するばかりである。〈吉見 恵子〉 | |
4Bの濃さと熱帯夜を過ごす | 新井 笑葉 |
本誌九月号掲載の地平「凡庸に生きる」に添えられた文章と、続編のような随筆「新しい家族」を読んで胸が一杯になった。何だか作品との距離感を縮めてくれる鍵が見つかった気がした。情感を排した表現は、悲しみの大きさが選んだ言葉であり忘れ得ぬ記憶を深く刻むためであったと思った。6Bより深い4Bの世界である。〈岩崎眞里子〉 | |
朝蝉よここが波乱の転び坂 | 吉田 浪 |
婆の指が弥勒菩薩と重なりぬ | 大谷晉一郎 |
若き日のかたち正しき捩摺草 | 越智ひろ子 |
きみのこと知らなきゃよかった剣の月 | 重田 和子 |
香草をぱらり忽ちレストラン | 松井 文子 |
パッチワークの町縫うように列車行く | 伊藤 礼子 |
街角ピアノかつて鳴らした夢のあと | 野邊富優葉 |
たとう紙開けば母の声を聴く | 山下 華子 |
旅終える地上に光るものを得て | 杉山 夕祈 |
残されたのは草茂る道歩むのみ | みとせりつ子 |
野の花にさそわれてゆく秋の試歩 | 松田ていこ |
2023.12.10